「今日からお前のお兄ちゃんだ」
そう父親から言われたのは、もう五年も前の話になる。
それからは、同じ屋根の下で、同じ釜の飯を食べて、兄妹のように暮らした。
それが壊れたのは、一瞬前のことだった。
「にい、好き」
それは、酔っ払った私の、リビングでの一言だった。
ゆったりと濡れたその声は、テレビをつけっぱなしにして携帯を見ていた兄にしっかり届いた。
「今、なんて?」
「い、……や……なんでも、ない」
そう言って目を逸らしても、お兄は立ち上がって、携帯を捨てて、私の元に来た。
「今。なんて言った」
目を合わせられて、外せなくて。そんなことを言われたら、どうしようもなかった。
「……にいのこと、好きって、言った」
私の言葉に目を逸らしたのは、意外にもお兄の方だった。
揺れた目を追いかけた私の目も、途中で意図に気付いて、揺れる。
「おにい、まさか、」
お兄は、無言で顔を近づけた。
上から降ってくる色素の薄い細い髪が、私の髪と混ざった。
「これが、最初で最後だ」
「――わかった」
私はそう言って、結ばれない口づけをした。